漫画『ガラスの仮面』にて、姉妹の王女を北島マヤとともに演じた姫川亜弓が、舞台終了後、無人の劇場を見ながらこんなことをいいます[1]。
信じられないわね
この静けさ…
さっきまでこの空間に別世界の出来事がおこっていたのよ
王がいて王妃がいて敵国があって血なまぐさい陰謀…
それらが一瞬のうちに夢から覚めたみたいに消えてしまっているなんて…
お芝居って不思議ね
ひとときの夢の人生を生きるのね
観る者も演じる者も…
高校演劇は彼女の言葉が強烈に当てはまります。
全国大会で最優秀を取れば『青春舞台[2]』で放送されますし、『七人の部長[3]』のように毎年どこかの大会で必ず上演される芝居もありますが、残り95%ぐらい(推定)の創作劇は一度だけの上演を経て文字通り消えてしまうのです。
せめて脚本さえ手元にあれば、いつでも振り返ることができる。そう思う観客は結構いるのかもしれません。
では、高校演劇で上演された舞台の脚本を入手する方法はあるのでしょうか?
まず大会のパンフレットを確認し、お目当ての舞台に"既成脚本"を示す但し書きが入れられている場合はかなりの確率で入手可能です。既成脚本とは"過去に書かれた脚本"ということであり、一部の例外を除いて本やネットで公開されているものだからです。
既成脚本とは?
- プロアマ問わず、上演校とは無関係の作者によって既に公開されている脚本
- 過去に上演校の顧問、部員が書き下ろし、発表した脚本
たとえばA高校の顧問が自校の演劇部のために書き下ろした脚本は、発表した年の大会では"創作脚本"扱いだが、翌年以降の大会でも使ったらそこでは"既成脚本"扱いになる。
- 上演校のために書き下ろされたものだが、その学校に所属していない作者による脚本
A高校が今年演じる芝居の脚本を部外者の私が書き下ろした場合、その時点で未発表ではあるものの、創作脚本扱いにはならない。
- 大会で脚本賞の対象にならない
既成脚本はどこで手に入れる?
既成脚本の入手先としては以下のところが挙げられます。
晩成書房から出版されている脚本集
晩成書房は世間的にはAmazonにけんかをふっかけたことでよく知られています[4]が、高校演劇にかかわっている人の間では学生演劇に関する本を多く出版している会社として有名です。『高校演劇Selection』シリーズに収録されている一部の脚本は、高校演劇を見る上で避けて通るのが不可能というぐらいよく上演されています。
高校演劇Selection 2001上
高校演劇Selection 2002上
高校演劇Selection 2003下
- 夏芙蓉(越智優・作)
- トシドンの放課後(上田美和・作)
高校演劇Selection 2004上
高校演劇Selection 2006上
高校演劇Selection 2006下
『演劇と教育』という月刊誌に掲載される脚本もおそらく利用されています。たとえば、『私を国立に連れてって』とか。
インターネット上の脚本公開サイト
有名なものではなく、ほかの演劇部があまりやっていない芝居を上演したいという学校はネットで探すことが多いようです。
上演終了後に行われる講評で、審査員が部員たちに対して「この芝居の台本はどこで探したの?」とよく質問するんですが、返答は大抵、「ネットで探しました」なので、本よりもネットを通じて見つける方がスタンダードなのかもしれません。
高校演劇でも使える脚本を公開しているサイト
高校演劇向けとは限っていませんが、高校演劇の大会およびイベントで上演実績のある脚本が掲載されているサイトです。
全国的な現象なのか神奈川県だけなのかわかりませんが、楽静の戯曲を『七人の部長』以上に地区大会で見ますね。
劇団の公式サイト
プロの劇団が上演、公開している戯曲を高校演劇用にアレンジ(潤色)するケースもちょいちょいあります。
でも、劇団の脚本を使う場合はウェブサイトに掲載されているものではなく、出版されている戯曲集からが多いかな。
季刊「高校演劇」
主に全国大会で演じられた脚本が掲載されている、高校演劇劇作研究会発行の『季刊「高校演劇」』は絶対に外せません。『高校演劇Selection』の新刊はもう出ていないため、かなりの演劇部がこの本から上演台本を探しているものと思われます。
季刊「高校演劇」に掲載されている、著名な舞台の脚本
- 日の丸水産(HINOMARU FISHERY) ~ヒミコ、日野家を語る~(No.216)
- もしイタ ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の『イタコ』を呼んだら(No.216)
- 夕暮れに子犬を拾う(No.226)
上記以外にも多数!
掲載作品をすべて知りたい場合は以下の目録へ。
上記以外の本から上演台本を選ぶ可能性は?
では、Amazonで"戯曲集"と検索するとたくさん出てくる、上に挙げた以外の本から上演台本が選ばれることはあるでしょうか。
部や顧問が所有している著名な劇作家の本から選ぶことはありえるでしょう。ですが、演劇部員が自費で著名とはいえない戯曲集を購入し、その中から脚本を選ぶことはかなり少ないと思われます。自由に使えるお金が決して多くない学生にとって、買ってみないと具体的な内容も上演時間も登場人物の人数もわからないのはリスクが高すぎるからです。
ということで、最初に晩成書房の出版物と季刊「高校演劇」の脚本掲載リストを確認し、見つからなければネットの脚本公開サービスで探してみるといいでしょう。
上演されたばかりの創作脚本はどうやって入手する?
大会パンフレットに掲載されている作品の紹介に"創作脚本"を示す但し書きがあれば、顧問か部員が自分たちのために書いたオリジナル脚本を使っています。

上のパンフレットだとタイトル横に◇がついている芝居が創作脚本のもの
創作脚本とは?
- 顧問、もしくは部員が直近の大会に出場する自校の演劇部のために書き下ろした脚本
- 演劇部には所属していないものの、同じ学校に通う生徒が直近の大会に出場する演劇部のために書き下ろした脚本(顧問が実質的には演劇部員という扱いにすれば?)
- 大会で脚本賞の対象になる
既成脚本と違い、上演時点で公開されていることはほぼありません。入手するには上演後に演劇部のサイトもしくはSNS経由で公開されるのを辛抱強く待つか、もしくは公開してもらうための働きかけをするしかないでしょう。首尾良く手に入れられる可能性は既成脚本よりもずっと低いです。
お目当ての創作脚本が春季を含む全国大会で演じられた場合はラッキーで、既成脚本のところでも取り上げた季刊「高校演劇」の全国大会特集号に掲載されるため確実に入手できます。季刊「高校演劇」のサイトにある購読についてのページ と在庫状況を参考に購入を申し込むのが簡単ですが、手に取って直接購入したいのであれば、
に書いた、総合文化祭東京公演など大きなイベントに現れる晩成書房の関係者(?)が、自社の出版物だけではなく季刊「高校演劇」も対面で販売するため、国立劇場、もしくは関東大会か都大会の会場まで足を運ぶことで購入の機会を得られる可能性が高いです。
季刊「高校演劇」は図書館で借りられる?
「あの芝居の脚本を読みたい!」と思ったのが、観劇後、ずいぶん後になってからということもあるかもしれません。仮にその脚本が全国大会で演じられて季刊「高校演劇」に掲載されたとしても、2018年以前に発行されたものだと入手のハードルは一気に高くなります(2022年3月時点)。発行元の高校演劇劇作研究会にバックナンバーが存在しないからです。
では、季刊「高校演劇」を図書館で借りることはできるでしょうか? 残念ながら難しいといわざるを得ません。この本は同人誌であり、図書館がわざわざ買いつけて貸し出すことはちょっと考えられないからです。実際、私が住んでいる地域の図書館には存在しませんし、大都市の大きな図書館にもないでしょう。
ネットの古書店やフリマサービスなら、わずかですが入手できる可能性はあります。私が古書を探すときにあてにするのは、
ですが、このうち、メルカリ、ヤフオク、日本の古本屋なら季刊「高校演劇」が売られていても不思議ではありません。ただ、お目当ての号をほしいと思ったときにすぐ買うのは無理です。一年に数冊出品されるけど、いつ、どの号が出てくるかはわからない、そんな感じでしょう。
時間が経ってから演劇部関係者がネットで公開することも
上演後、しばらくしてから脚本をネットで公開する演劇部顧問、演劇部も存在するので、何年も前に上演された創作脚本であってもタイトルを覚えていれば、こまめに検索することで入手できる可能性もあります。
演劇部が脚本を公開しているサイト
顧問が脚本を公開しているサイト
脚本といえば神奈川県内にはとても有名な場所が……
局所的な話で恐縮ですが、神奈川県には県大会などが開催される県青少年センターというところがありまして、二階の「演劇資料室」には脚本がたくさん所蔵されています。

何度か行ったことがありますが、大学教授の研究室って感じのパーソナルな雰囲気を漂わせているので、中学生などは「入っても大丈夫なのかな……」と不安になるかもしれません。もちろん入っても全然問題ないので、横浜の桜木町にくる用事があったら足を延ばしてみるのもいいでしょう。
ちなみに、『劇部ですから!』という中学の演劇部を描いた児童小説があり、作中、主人公が訪れています。なんか、学校の取材を神奈川県内で行ったようなので、その流れで作者さんが立ち寄ったんですかね。
演劇資料室についてより詳しく知りたい方は以下のサイトへ。
(敬称略)
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